本を読み、付け焼き刃の知識で、私はお通夜に参列した。
お通夜は彼の自宅で行われた。

初めて行く彼の自宅。
でもちっとも嬉しくなかった。
こういう状況で行くことになるなんて、夢にも思わなかった。

「通夜の後に会えるよ。途中まで(車で)送っていくよ」と彼が言ってくれていたので、お焼香の後、じゃまにならないようなところで待っていると、彼がきた。

彼の指にはいつも通り、ペアリングがはめられていた。
私は作法通り外していたのに。
結婚してるとか、婚約しているとか、彼が誤解されないかしらと、少し心配になってしまった。

8時くらいまで接待等で手があかないそうで、私は近くを散歩して待つことにした。
はじめから、近くを歩くことは決めていた。

そこへお母さんがいらっしゃった。

私は、お母さんに「ご愁傷様でした」とは言えなかった。
言わないのは失礼かもしれないけど、とてもそんな“他人行儀”なことは言えなかった。

“彼女”という立場だから言えなかったわけじゃない。
たった一度お会いしただけだが、私はお父さんが好きだった。

だから言えなかった。
“大切な人”を亡くし、どうして「ご愁傷様です」と言えるだろう……



2時間ほど、私は一人で近くを歩いた。

外は暗く、山や森が多いため、闇は深かった。
道に迷わぬよう気をつけながら歩いた。

彼からの電話で戻った。
彼の妹の部屋に通され、おにぎりなどをいただいた。

その部屋には幼い彼の写真が飾ってあった。
服にはアップリケで彼の名前が描かれていた。

小一時間程おじゃまし、彼の車で乗り換えの駅まで送ってもらうことになった。
お母さんと、お母さんの妹さんと、彼の妹が見送ってくれた。
お母さんの妹さんには、「新婚さんみたいね」と言われた。






駅の近くで車をとめ、しばらく寄り添っていた。



「あのとき、パペマリの胸で泣きたかった」と彼は言った。
私が抱きしめながら「泣いていいよ」と言うと、
彼は「まだ終わってないから」と気持ちを緩めなかった。


ただ一つ、「(一人暮らしの家に)戻ったら、抱かせてね」と言った。

私は、胸がきゅっとなるのを感じながら、
「うん」と言って、彼を抱きしめた。

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