二年前の今日は日曜日だった。

私たちは学内行事に参加するため、午前から練習をしていた。

予定時間より遅い出演だったと思う。
男声合唱、女声合唱、混声合唱の順に披露。

男声合唱を後ろで聞きながら、
Mちゃんが彼を見て「今日は○○ノリノリだね」と言ったのを覚えてる。

出番が終わり、教室で着替え、私はMちゃんとお礼金の受け取りに違う校舎に行った。

担当の方からお礼金を受け取り、教室に向かって学内を歩いていると、彼が走ってきた。

そして私の横を通り過ぎるとき、耳元で素早くささやいた。

「親父が危篤」

彼は自転車置き場に向かって走った。
私は息をとめた。

Mちゃんは「どうしたの?」と聞いた。
「何でもない」と言って私は歩きだしたが、すぐ立ち止まり「ごめん、先に戻ってて」とMちゃんに伝え、彼を待った。

私は彼に「私も一緒に行こうか?」と聞いた。
彼は少し迷ったみたいだけど、「だいじょぶだから」と答えた。

私は不安に思いながらも彼を見送った。

教室に戻ったけれど、居ても立ってもいられなくて、部活が終わると大学を飛び出し、一人暮らしの彼の家に急いだ。

彼は、もう家を出たあとだった。

彼が脱ぎ捨てていったシャツをつかみ、私は涙を堪えた。

泣くのはまだ早い。
まだお父さんは生きている。
泣くなんて、まるでもう助からないみたいじゃないかっ!
泣くもんか、泣くもんかっ!!

息を整え、私はできるだけゆっくりと家に帰り始めた。
彼がもし私を呼んだらすぐに駆けつけられるように、できれば家に帰らずにいたかったから…

時間をかけて家路に着いた。
その後、彼からメールがあった。

「呼びかけても答えない。ものすごく痩せてしまった…」
私には、「きっと聞こえるから、ずっと呼びかけていて」
と答えるしか出来なかった。

私は、部屋の電気を消し、窓を開け、
窓辺に座っていた。



9時を回った後だったと思う。

携帯が鳴った。
彼専用の着メロだった。

 
電話を取りたくなかった。
でも、取るしかなかった。

「もしもし…」

受話器の向こうからは、彼の嗚咽が聞こえた。
私の目から、涙があふれた。

彼の嗚咽が病院の廊下に響いていた。

「父さんが死んじゃった…」

私は、彼の名前を呼ぶことしか出来なくて、
携帯を通して、「ここにいるよ」と伝えることしかできなくて、

そばにいてあげられないことが、
抱きしめてあげられないことが、

とても辛かった。

「ごめん。ありがと。(電話)切るね…」
と、彼は言った。

「うん…ありがと」
と、私は言った。

彼の「ありがと」は、聞いてくれて「ありがと」
だったのだと思う。

私の「ありがと」は、言ってくれて「ありがと」
だった。



電話を切ったあと、どれくらい泣いたのか、
よく覚えていない。


ベッドの上で、夜空を見上げながら
ぐるぐると、いつまでも眠れずにいた。

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